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Italy [Biella] 

消えゆくリンゴたちの守り人を訪ねてピエモンテ州ビエッラへ

自分たちが暮らす地域への愛情が生んだパネットーネ

JOURNAL / EUROPENov. 11, 2019

text by Motoko Iwasaki / photographs by Stefano Ceretti

ピエモンテ州北部の町ビエッラで、リンゴの多品種栽培を手掛けるマルコと、地元でバール兼パスティッチェリアを営むマリオとの出合いから生まれたパネットーネが、12月、日本にやってきます。自分たちが暮らす地域の伝統を日本の人たちに知ってもらいたいと、作り手自ら運んでくる味を鎌倉・長谷のエノガストロノミア「オルトレヴィーノ」で楽しむ会(詳細は下記ご覧ください)。開催に先駆けて「オルトレヴィーノ」古澤一記シェフ、千恵さん夫妻が8月末、ビエッラを訪ねました。

マルコが守ったリンゴ栽培、そのストーリーを知った菓子職人マリオ

ビエッラの人気バール「カンテリーノ」の店主であり菓子職人のマリオ


旬の果物を使ったフィリングやチョコレート、カスタードクリームを巻き込んだ10種類以上ものクロワッサンを毎朝焼き上げ、特別焙煎のコーヒー豆で淹れたエスプレッソやカプチーノを小気味よいサービスで提供するバールとして、地域の紳士淑女から愛される店「カンテリーノ(Canterino)」。その店主 マリオ・カンテリーノ(Mario Canterino)は、5月のある晴れた日曜日、束の間の休息を求めアルプスの山々を一望する田舎道を散歩していた。

辺りに咲く可憐な花々の白さに、まるで時間が止まったかのように花を追って林の中を分け入るうちに、ふと、一人の男に出くわした。そこは農園で、男はその土地の主だと気がついた。花に魅せられたとはいえ、彼の土地に無断で侵入したことを詫びるマリオに、男は逆に「リンゴ園にようこそ」と、穏やかな笑顔で応え、農園を案内してくれたという。
それが12年前、町のリンゴ博士 マルコ・マッフェオ(Marco Maffeo)と菓子職人マリオの最初の出会いだった。



白髪混じりのもじゃもじゃの髪を後ろ手に束ねたサンダル履きのマルコ(右)に「まるで仙人みたい!」と、千恵さん。


鬱蒼とした林に茂るリンゴの木々はどれも同じように見えたが、柔らかい果肉からラズベリーやイチゴに似た甘い香りを放つカルヴィッレ(Calville)、薄皮で平べったい形に、少し硬めの果肉でアニスやフェンネルに似た香りのするコロンビーネ(Colombine)、酸味と粉っぽい果肉が特徴で、果皮に錆たようなざらつきのあるレネッテ(Renette)など、実は無数の品種をきれいにグループ分けして栽培されている。



仕事の合間をぬって古澤夫妻をマルコの農園に案内したマリオと息子のピエトロ



今日のビエッラ地域で盛んな農業といえば、酪農や稲作、穀類栽培などだが、戦前までは多種多様なリンゴが栽培され、その数は130種類にも及んだという。この地域の食文化と深い関わりのある農産物だというのに、そのリンゴが姿を消していくのは忍びないと、マルコはリンゴの種の保存に乗り出したのだ。




一方「カンテリーノ」は、イタリアの主要なガイドブックの一つ『ガンベロ・ロッソ』が毎年選ぶ「イタリアのバールBest15」にも常連としてその名を連ね、同時にパスティッチェリア(菓子店)としても選び抜いた素材を用い、洗練されたケーキやチョコレートなどを揃えてお客を喜ばせてきた。




家族で切り盛りしてきたその店をここまでにした自負がマリオにはある。ところが、自らもパティシエとして奮闘するマリオは、工房でも頻繁に使っていたリンゴという素材が、実は昔は地域の大切な農産物だったと知り、大きく心を動かされた。そしてマルコとの親交が深まるにつれ、彼のリンゴを自分の工房で扱いたいという思いが日増しに膨らんでいったと話す。



リンゴを売ったらその名前を連呼して種を守る

ビエッラ郊外にある文化財団の駐車場で毎週水曜日に開かれるファーマーズマーケット「Let Eat Bi(BIはビエッラの略)」。マルコは農園で採れた10種類ほどの旬のリンゴや珍しい野菜をここで販売している。トラックからリンゴや野菜の入った木箱を下ろして並べるや、彼のリンゴを目当てのお客が次々にやってくる。

「コリコリした食感で甘めのリンゴを1キロほど」
「この前のと同じのを頂戴!ちょっと酸っぱい……あっ、それよ、クリムドン!」
他の店ならフジやジョナゴールドといった知られた品種を名指しで買っていくのに、ここでは誰しも好みのリンゴの特徴を伝え、マルコのアドバイスで聞いたこともない名のリンゴを買い込んでいく。半ば野生化したマルコの林で育つリンゴは形も大きさも様々。中には虫に食われたものも並ぶが、彼のリンゴにはどこかしら精気がみなぎり、気がつけば3個買うつもりが5個、1種類だけのつもりが2種類と注文数が膨らんでいる。




「僕は子供の頃から祖父と一緒に畑に行ったり、植物図鑑で果樹を調べるのが好きだった。80年代、僕が20才で父が亡くなってね、自分が土地を相続することになり、古い借用書を見ていたら、土地の借料はリンゴあるいはジャガイモで支払うと書かれてあった。リンゴはお金と同じだったんだ。それほど重要だった農産物がこの地域から消えていくのは残念だった。

そこで州内の他の地域に住む仲間に声をかけ、リンゴに関する情報交換ネットワークを作り、各地域で昔作られていた品種を調べることにした。暫くしてピエモンテ州政府も他に先駆けて『生物多様性条約』に従った政策を取り始めた。このこともリンゴの品種保存活動の後押しになった。文献を漁り、ビエッラで栽培されていたリンゴとその文化をテーマに本も書いたよ。おかげで我が家の蔵書は3000冊を超える。中にはミッキーマウスなんかの古い漫画本もあるがね」




「最後に一つ。お客がリンゴを買っていくだろう。そしたら買ってくれたリンゴの名前を何度も口にして、そのリンゴの名前を憶えてもらう。それも品種を絶やさないための大切な手段さ!」



マルコのリンゴで焼く、やさしい味のパネットーネ

マリオとマルコ、2人の最初の出会いから2年。マリオは家業を継ぐべく自らもパティシエとなった息子のピエトロと二人、バール裏の工房に籠り、マルコのリンゴで砂糖漬けを作り始めた。彼のリンゴだけを用いてクリスマスの伝統菓子「パネットーネ」を作る。店に来た女性客がこぼした「パネットーネはフルーツの砂糖漬けが胃にもたれるから、たくさんは食べられない」という小さな愚痴をヒントに思いついたという。




そこから親子の試行錯誤は始まった。マルコは一種類のリンゴを大量に栽培することはないし、リンゴの収量も毎年一定ではない。雑多な品種のリンゴたちから一定の質の砂糖漬けを作るのは至難の技だ。納得のいくレシピを得るため、アオスタ州にある大学にも協力を仰いだ。




そして古澤夫妻が工房を訪れた日、片隅に置かれた容器の中で、12カ月間漬け込まれてきたダイス状のリンゴたちが飴色に輝き、一家伝来の酵母を目覚めさせゆっくり発酵した生地の中に潜り、焼かれる時を待ちかねていた。






焼き上がったパネットーネは適度な弾力で、噛みしめるうちに舌に触れるリンゴからフルーティーさが呼びかけてくる。そんなシンプルな美味しさが人気のパネットーネ作りも今年で10年目を迎えた。
生産個数わずか400個。彼らのパネットーネを心待ちにするファンの予約で、販売前にほぼ売り切れてしまうが、カンテリーノ家のオーブンは、パネットーネを焼くだけの十分な大きさがなく、友人の工房を間借りして焼くため、この数が限界だ。


焼き上がったパネットーネは逆さまに吊るして粗熱をとってから棚に並べられる。



事業として大きな収益には結びつかなくとも、種の守り人マルコが喜び、彼らのパネットーネを手にした人が喜び、地域の食文化と生物多様性の維持に一役買える。マルコとマリオ親子の友情のあり方を見ていて、気付かされた。人間だけが見通すことができ、人の良心なくしては得られない未来への切符「サステナビリティ」の基盤を地域で築くのは、共に暮らす人々への愛情なのだ。



[Shop Data]
Canterino

https://www.facebook.com/canterinocanterino/
Via Rosselli, 102
13900 Biella (BI)
Tel +39 015 402741
月曜~土曜 7:00~12:30/15:00~18:00
日曜 7:00~12:30

Il Mercatino “Let Eat Bi”(ピストレット財団内 ファーマーズマーケット)
Via Serralunga, 27
13900 Biella (BI)
毎週水曜 10:00~13:00



<GOOD NEWS!>
マルコとマリオのパネットーネが日本にやってくる!

鎌倉・長谷「オルトレヴィーノ」で、パネットーネを実際に味わえる会が開催されます。
クリスマスシーズンの幕開けに、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?

「マルコとマリオのパネットーネを楽しむ会」
日時:12月1日(日)14:00~18:00 
内容:カジュアルな立食スタイル
古澤シェフがつくる数種のおつまみ
マルコさんとマリオさんのパネットーネ
この機会に初来日を果たすマルコさんの息子、ピエトロさんが淹れるカフェとともに。
同じくビエッラ地域の土着品種エルバルーチェ100%のパッシートワインも添えて
参加費:3,000円(税込) キャッシュオンでワインも、お求めいただけます。

詳細は、以下FacebookイベントページもしくはOLTREVINOブログまで。
◎ Facebookイベントペー
https://www.facebook.com/events/2454810928067925/
(FBアカウントをお持ちの方で、本イベントにお越しいただく際には事前に「参加予定」をチェックいただければ幸いです。)

◎ OLTREVINOブログ
https://oltrevino.exblog.jp/239760821/









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